高齢者を食い物にする「振り込め詐欺」の被害総額は2019年で300億円を超えた。その手口は年々巧妙化している。銀行員や役人を装ったり、自宅までキャッシュカードを取りに来たりと芝居がリアルになっているという。

 

スマホアプリ「シェアガード」は詐欺師が話している音声を声紋分析し登録する

新型コロナウィルスがらみで政府が現金10万円の支給を決めたが、これまた詐欺の懸念が叫ばれている。すでにマスク絡みなどの詐欺も多発しているという。そこでスマホアプリ「シェアガード」を開発している企業、セレンディピティー(東京・新宿)の高良悦子社長にスカイプを使ってリモート取材をした。

開発のきっかけは「親類が振り込め詐欺にあいそうになり、寸前で電話確認で難を逃れた」ことだった。最初は固定電話で詐欺撲滅の仕組みを作ろうと考えたが、ハードはアップデートが大変。最近はスマホに電話がかかってくるケースも多いとわかり、アプリの開発を始めた。

「イルカは背びれの形で、個体差を認識できる。人間も声紋が一人ひとり違うので使えると考えた」。声紋とはいわば「声の指紋」。専用の機械で分析をすると個人個人で別の波形を示し、指紋と同様、誰かと一致することはまずない。高良氏はアプリの開発者でもIT(情報技術)企業の経営者でもなかったが、社会から詐欺を撲滅したいという思いでゼロからこの事業を立ち上げた。

アプリの使い方は至って簡単だ。アプリをインストールしたスマホに、知らない番号から電話がかかってくるとアプリが自動的に立ち上がる。怪しいと感じたら「通報ボタン」を押して通話を切断。その間に、詐欺師が話している音声を声紋分析し登録するという仕組みだ。

もし、他の高齢者のところに同じ詐欺師から電話がかかってきても、登録された詐欺師の声紋とマッチングされ、通話が自動的にブロックされる。人は一生涯、声紋を変えることができないので、二度と詐欺ができなくなる。

まずはスマホのOS(基本ソフト)アンドロイドの試作アプリが完成した。現在バグをとったりテストをしたりして精度を高めている。今年夏のリリースを目指す。

 

のろ・えいしろう 愛知工大工卒。学生時代から企業PRに携わり、出版社を経て日本テレビの「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」で放送作家デビュー。戦略PRコンサルタントとしても著作多数。愛知県出身。

高良氏によれば、電話による詐欺は世界的な犯罪で、高齢者だけでなく一般の人でも被害に遭っている。アンドロイドを選んだのは「全世界で見た時にシェアが高く、最初からスマホにプリインストールしたいから」。現在、資金調達をふくめ様々な企業と協議中。最初から世界を視野に入れてビジネスを展開しようとしている。

まずは、アプリを拡散して使ってもらう人数を増やすことが先決だ。それにより詐欺師の音声を大量に集め、分析したデータ蓄積し、詐欺の予防につなげるという。

「希望を感じにくい混沌とした今の社会において、たった一人でもチャレンジすることが大切だ」と語る高良氏。詐欺の世界はまさにイタチごっこで、テクノロジーができたからといってそれに委ねればいい訳ではない。

本人はもちろん、家族や周辺の人も詐欺にあわせないように普段から密なるコミュニケーションが必要だ……と自戒の念も込めて。

出典:日本経済新聞(2020/04/27)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO58458780U0A420C2H56A00/