前橋市の男性(90)宅に警察官を名乗る男から電話がかかってきたのは昨年10月28日午後。「キャッシュカードが不正に利用されている」「銀行にはどのくらい預金していますか」。矢継ぎ早の説明と質問。男性は「警察と言われ、すっかり信用してしまった。暗証番号も教えてしまったかもしれない」と振り返る。
◎65歳以上の被害が9割以上 揺さぶられる「信用」
通話が終わらないうちに若い男が訪ねてきた。シャツにズボン姿。警察官には見えない風体だった。言われるがままに封筒を用意し、キャッシュカードを入れて封をした後、割り印も押した。「しばらく開けないように」と念を押し、男は男性方を後にした。疑いを抱きつつも、男性は黙って見送った。
男は玄関を出た直後、行動確認をしていたとみられる群馬県警の捜査員に身柄を確保された。促されて男性が自宅の封筒を開けると、見知らぬ別のカードが入っていた。「はんこを探しに行くときにすり替えられていた。あのままだったら、確実に引き出されていた」。息子をかたるオレオレ詐欺、キャッシュカードをだまし取るカード手交型詐欺などの被害が相次いでいることは知っていたが、男性は「自分が狙われるとは思わなかった」と打ち明ける。
群馬県警のまとめによると、県内で昨年発生した特殊詐欺被害263件のうち、65歳以上の高齢者が被害に遭ったケースは241件(91.6%)。今年は6月末時点で103件のうち、65歳以上が95件(92.2%)を占め、犯行グループが高齢者の老後資金に狙いを定めていることが分かる。
警察官や市職員、金融機関職員ら社会的信用のある職業を名乗り、電話をかけた上で、近くに待機させた「受け子」役を向かわせる手法が主流だ。数百万円から1000万円を超える高額被害も珍しくない。何より事件は被害者の心に暗い影を落とす。
前橋市の女性(83)は昨年6月、市職員らをかたる電話の後、自宅を訪れた男にキャッシュカードを手渡し、現金50万円を引き出される被害に遭った。事件後、電話に出てもすぐに名乗らないようにするなど被害防止策を徹底するようになった。事件を思い出すのもつらいが、女性は「だました人を憎むより、だまされた自分の弱さを情けないと思う気持ちが強い。疑い深くなってしまった」と肩を落とす。
相次ぐ特殊詐欺被害は心の平穏ばかりか、地域社会を結び付けてきた「信用」も揺さぶっている。
出典:yahooニュース(2020/7/26)
https://news.yahoo.co.jp/articles/cfa82961fda6efaa0999969933c78f15aeb2b689