埼玉県内に住む中国人たちに、中国語で在日中国大使館や警察などを装い、「強制送還」をちらつかせて不安をあおる電話が相次いでいる。中国人や日本に帰化した人などを狙った特殊詐欺に関係しているとみられ、10月と11月には多額の現金をだまし取られる被害も県内であった。県警が注意喚起チラシを配布するなどして、対策に乗り出している。

 県警国際捜査課によると、電話は最初に中国語の音声ガイダンスで始まる場合が多く、「緊急公文書がある」「在留カードが間もなく失効する」などと流れる。音声の最後に「『9』を押すと、担当者が説明をします」と流れ、その後、中国語で話す人物が出てきて個人情報を聞き取ったり、口座へ振り込むように誘導したりするという。

 実際に、被害も出ている。熊谷市の無職女性(50歳代)のスマートフォンには9月30日、中国語の音声ガイダンスで「あなたは出入国ができない」などと流れる電話があった。女性が音声の指示に従いスマホの番号を押すと、中国大使館や上海警察の職員を名乗った男女にかわり、「あなた名義のパスポートを所持した犯人を上海警察で逮捕した。あなたも詐欺の犯人として疑われている」などと話した。女性は「金を振り込めば、潔白を証明できる」と言われたため、10月1~8日に複数回にわたり、現金を振り込んでしまった。被害は計3600万円に上った。

 川口市の女性会社員(20歳代)には10月20日、中国大使館職員や警察官を装った男女から「空港で逮捕された女があなた名義のキャッシュカードを所持していた」「個人情報を売ったのではないか。あなたを含め、日本にいる容疑者を逮捕し、中国に連行しなければならない」などと電話があった。女性は11月4日、指定された口座に現金115万円を振り込んだ

 被害や電話の多発を受けて、県警は被害防止を呼びかけるチラシを作成した。チラシでは、中国語で犯罪の手口を紹介しているほか、「絶対に相手にお金を送らない」などといった注意点を記載。11月20日には、JR西川口駅西口で飲食店など約30店舗に配布した。

 県警国際捜査課は「日本に住む中国出身の人や中国語を理解できる人には、音声ガイダンスや心当たりのない電話に、十分に注意してもらいたい」と呼びかけている。

 5月に中国大使館をかたる電話を受けたという、川口市に住む中国籍のアルバイト女性(35)が読売新聞の取材に応じた。女性は「滑らかな中国語で話してきたので、詐欺だと最初は気づかなかった」と話した。

 5月28日朝、女性のスマートフォンに電話があり、大使館をかたる中国語の音声ガイダンスが流れた。

 「パスポートのことは9番を押してください」

 女性は3月にパスポートの更新作業を行ったが、コロナの影響で発行が遅れていた。迷わずボタンを押すと、今度は女が電話に出て、中国語で「○○さんですか?」と名前を聞いてきた。その後「あなたのパスポートが上海で悪用された」などと続けたため、女性は聞かれるがままに生年月日や電話番号などを教えた。

 だが、途中で不審に思い、相手に電話番号を問いただすと、電話を切られたという。女性は「途中で気付かなければ他のことも話したかもしれない」と振り返る。

 「自分も含め、多くの中国人が海外で頑張って仕事をしている。そんな人たちを中国語を使ってだます人がいるのは、悲しい」と語った。

出典:読売新聞(2020/12/08)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20201208-OYT1T50127/