「市役所の者です。○○さんですか」。いきなり自分の名前を言われた妻は、電話口の男の話を信じた-。岐阜県可児市の70代夫と60代妻の自宅に5月、還付金詐欺の電話があった。幸い、金融機関まで行ったが振り込むことはなく被害に遭わずに済んだ。2人は「今回の経験を話して、少しでも被害を防ぎたい」と取材に応じ、犯人との生々しい会話や手口について語った。

 5月19日午前10時30分、最初の電話には妻が出た。相手の男の話しぶりは丁寧で滑らかだった。「青色の封筒が届いていませんか。過去5年分の介護保険の還付金があります。締め切りは過ぎてますが大丈夫ですよ」。還付額は3万6千円。妻は「小遣いくらいにはなるかな」と思った。着信ディスプレーには「表示圏外」という文字が出ていた。少し違和感があった。取引のある金融機関名を聞かれ、電話は切れた。

 すぐ2回目の電話があった。妻が答えた金融機関のコールセンター職員を名乗る男からだった。ディスプレーには再び「表示圏外」の文字。妻が指摘すると、男は答えた。「IP電話なので番号が出ません。設定を変えてかけ直します」

 3度目の電話も妻が応対した。今度は「表示圏外 050-」という携帯電話の番号が出た。男は「ATMで手続きをしてください」と言い、市内のショッピングセンターを名指しし、店舗内のATMを使うよう促した。妻が「普段取引している金融機関に行く」と答えると、男は到着したら電話するよう指示した。夫はディスプレーに出ている携帯番号をメモした。

 午前11時、夫婦で金融機関に向かった。到着後、妻が電話すると男は出ず、すぐ折り返してきた。「口座にいくら残っていますか」。いきなり残高を聞かれて驚く妻を見て、夫はその携帯を取り上げた。夫は強い口調で「あんた誰だ?」と電話先の男を問いただすと、相手は電話を切ったが、すぐもう一度かけてきた。夫は再び聞いた。「あんた誰だ?」。男は「金融機関のコールセンターです」とだけ答え、氏名を言わない。夫は一気に畳み掛けた。「あんたが勤めているはずの金融機関に来ているのに、電話で会話しているのはおかしいだろう。今から職員に電話を代わるからな」。電話は切れた。わずか1時間の出来事だった。

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 可児署で行われた取材で、妻は「詐欺の手口は知っていたが、それでも信じ込んでしまうような物言いだった」と話した。

 実は、自宅に電話があった時点で夫は詐欺と確信していた。市役所職員なのに氏名を言わないことを不審に思っていた。だが、妻はそれを信じない。夫は、振り込む寸前で止めるつもりで金融機関に同行した。詐欺を防ぐ方法について「電話に出たら氏名や会社名・所属を必ず確認してほしい。内容がおかしければすぐに通報した方がいい」と話した。

出典:Yahooニュース(2021/6/9 岐阜新聞Web)https://news.yahoo.co.jp/articles/1fe71ea1822623c28ab7eeb3442261cbf4a811a3