警察官などを装い、現金やキャッシュカードをだまし取る特殊詐欺「ニセ電話詐欺」の被害が後を絶たない。岐阜県内では、その被害が昨年の2倍近くに増えている。対策を講じても被害がなかなか減らない中、県警は新たな広報活動にも乗り出し、被害を食い止めようとしている。

 「青色の封筒が届いていませんか。過去5年分の介護保険の払い戻しがあります」

 今年5月、可児市の60代女性は、自宅でこんな内容の電話を受けた。電話の相手は、「市役所職員」を名乗る30~40代ぐらいの男性だった。

 本来は相手の電話番号が表示される固定電話のディスプレーが「表示圏外」となっているなど、不審な点もあった。それでも電話口の男性は、電話帳に載せていない女性の名前を知っており、「封筒を送っているはずです」「支払い期限は3月まででしたが、まだ支払いしますよ」と、話の流れも自然だった。女性は指示に従い、夫とともに車で近くの金融機関に向かった。

 女性が詐欺だと気づいたのは、現金自動受払機(ATM)の手前だった。金融機関に到着後、その金融機関の「コールセンター職員」を名乗る男性から携帯に電話があり、男性は預金残高を聞いてきた。「なぜお金を受け取るのに残高が必要なのか」。電話に代わって出た夫が金融機関の窓口の職員に取り次ごうとした途端、通話は切られた。女性は「話が本当だと信じてしまうような物言いだった」と振り返り、「相手の名前や所属を確認しないと、相手のペースに流されてしまう」と語った。

 ◇被害昨年の2倍

 県警生活安全総務課によると、今年1~5月末のニセ電話詐欺の被害件数は109件(前年同期比56件増)、被害総額は約1億4900万円(同約7700万円増)で、いずれも昨年よりほぼ倍増している。

 県内で今年、被害が目立つ手口は大きく分けて2種類ある。一つは、被害者の自宅を訪れてキャッシュカードをだまし取る手口の詐欺だ。被害者が見ていない間にカードを偽物とすり替え、本物をだまし取る「キャッシュカード詐欺盗」(25件)や、カードが不正利用されていると被害者に信じ込ませてカードを持ち去る「預貯金詐欺」(16件)などがこれに当たる。

 もう一つは、行政職員を装って「介護保険料の還付金がある」などとATMに誘導し、現金を振り込ませる「還付金詐欺」(25件)。昨年は年間で4件のみだったが、今年に入り被害が急増している。

 こうした特殊詐欺はグループで犯行が行われる。現金やカードをだまし取る手口では、「掛け子」が電話をかけた後、「受け子」が被害者の家を訪ねる。被害者の7割超が65歳以上の高齢者である一方、受け子は若者が多い。警察庁によると、昨年、特殊詐欺の受け子として全国で検挙された者のうち、約2割が10代の少年だった。

 最近では「闇サイト」と呼ばれるウェブサイトや、SNS(会員制交流サイト)で受け子を募るケースもあるという。捜査関係者によると、メッセージが既読になると、送信者と受信者の両方の画面からメッセージが消えるアプリなどが使われている。捜査関係者は「100万円をだまし取っても、受け子の取り分はせいぜい1~2万円程度。それでも他のアルバイトよりは稼げるのでは」と、金欲しさに若者が受け子になっていると指摘した。

 今月16日には、岐阜市内を警戒中の機動捜査隊員が、タクシーでコンビニエンスストアに向かい、ATMで現金約50万円を引き出した30代の男を発見。職務質問をすると、直前に80代女性からキャッシュカードをだまし取っていたことが判明し、この男を逮捕したケースもあった。しかし、受け子は電話やSNS上だけで指南役とやり取りしているため、末端の受け子だけを摘発しても、グループ全体に迫るのは難しいという。

 ◇一部施策に効果

 功を奏した被害防止策もあった。県警は2016~17年、県内に本店を置く金融機関で一定期間、振り込みをしていない70代以上の客に対し、ATMでの振り込みを制限した。16年には全体の半数以上が70代以上だったが、17年には3割まで減った。しかし、今度は制限の無い60代以下にターゲットが変わるなど、対策の抜け道を探す犯行グループとの「いたちごっこ」が続いており、県警は新たな対策を検討している。

 被害に遭う人が後を絶たない背景として、県警生活安全総務課の担当者は「自分はだまされないと思っていると、逆に冷静な判断ができなくなる」と話す。受け子の特徴を知らせるビラをJR岐阜駅前で配布するなど、新たな広報活動にも乗り出し、県民の意識にも変化を促そうとしている。【熊谷佐和子】

出典:Yahooニュース(2021/6/19 毎日新聞)
https://news.yahoo.co.jp/articles/4823af68bc37b66effce9a612e6302a02203e70e