【東方新報】自分が乗る旅客機の出発が遅れた場合、それに伴う損失を補塡(ほてん)する「遅延保険」を悪用し、4年間で約300万元(約4540万円)を荒稼ぎした女が中国・南京市(Nanjing)の警察に逮捕された。その手口が話題になるとともに、旅行保険業界では「同じ手口の詐欺犯は他にもいる」とささやかれている。 4月下旬、ある保険会社の幹部が南京市公安局鼓楼警察署に訪れた。「1人の女が大量の遅延保険に加入し、詐欺を働いているようなんです」。警察がすぐに捜査に乗り出した結果、山東省(Shandong)青島市(Qingdao)の李容疑者を詐欺容疑で逮捕した。この女は2015年以降、900件の遅延保険で合計300万元の保険金を受け取っていた。自宅からは各旅行会社の遅延に関する詳細なデータを記録したパソコンやノートが見つかった。
遅延保険は、チケットを購入していた旅客機が数時間フライトを延長した場合に保険金を支払うシステム。しかし、事前にどのフライトが遅延するか分かるはずもない。李容疑者はどのように詐欺を可能にしたのか?
実は李容疑者は以前、航空旅行関連の会社に勤務していた。その経験から、遅延保険の仕組みや、遅延しやすい旅客便の傾向を熟知していたという。 李容疑者は遅延が多い旅客便のデータを集め、さらに天気予報から天候が極端に悪化するエリアを分析。フライトが遅れそうな旅客便を見極め、大量にチケットを購入した。名義は、友人や知人の名前を使用。
李容疑者は事前に「財テクをしてあげる」と言って、友人や知人から身分証やパスポートの番号を聞き出していた。時には一つのフライトで30枚や40枚のチケットを購入していた。
ある便のフライトが近づき、遅延の可能性が低いと判断すると、早めにキャンセルして「損失」を減らしていた。そして実際に定刻通りに出発しない便が発生すると、「時間通りに離陸しなかったため損害が生じた」として保険を申請していた。 遅延保険は通常、チケット1枚につき40元(約600円)程度で申し込める。そして遅延が発生した場合、400元(約6000円)から2000元(約3万円)の保険金を受け取れる。遅延時間が長い場合、保険金は8000元(約12万円)に達することもある。
用意周到に詐欺を繰り返してきた李容疑者だが、名義はバラバラなのに保険金を振り込む銀行口座が同一ということに保険会社がようやく気づき、逮捕されることになった。そして今月に入りこの事件が発表されると、保険業界では「今回の事件は氷山の一角にすぎない」と話題になった。
ある旅行会社で遅延保険業務を担当する孫竟沢さんは中国メディアの取材に「遅延保険や欠航保険に大量に申し込み、損害賠償を請求してくる人は結構いるんです」と打ち明けている。 「私たちより早く、遅延情報をつかんでいる人がいる」と証言する孫さん。孫さんが勤める旅行会社には各航空会社から「遅延が発生した」と連絡が来るが、それよりも早く「フライトが遅れたので保険金を請求します」という連絡が届くことがあるという。旅行会社に直接問い合わせたり、インターネットなどで逐一情報を調べたりしているらしい。
やっかいなのは、「実際にフライトが遅延している」ことだ。保険金を請求したからと言って、即座に「詐欺」と判断することは難しい。チケットの「転売ヤー」が即座に犯罪と問われないように、現行の制度に基づいた「遅延保険ビジネス」と言えなくもない。詐欺とみなすには、最初から実際に旅客便に乗る意思がなく、同一人物が一つの便で大量にチケットを購入していることを証明しなければならない。ある中国メディアは「よっぽど大きな損害を抱えない限り、警察に通報しようとしない保険業界の体質も問題だ。『保険会社同士で情報を共有するシステムがないので、詐欺犯を割り出しにくい』などと言い訳して、結局は詐欺をたくらむ連中を野放しにしている」と指摘している。
出典:Yahooニュース(2020/6/23)
https://news.yahoo.co.jp/articles/bccd007e3221a0a39ef0378964f8a03e3c996031