兵庫県警西宮署では2019年11月~20年2月にかけ、特殊詐欺の手口で高齢者からキャッシュカードを受け取る「受け子」を相次いで検挙した。同署が進めてきた“通報即出動”の捜査の成果だが、「受け子」の多くはインターネットの闇サイトで雇われ、指示役の名前も顔も知らないまま。捜査はネットの闇に阻まれ、苦闘が続く。【井上元宏】 「手軽に金を稼げないかと手を出して、悪い連中に使われて、最後はとかげのしっぽ切りに遭うんです」。6月中旬、神戸地裁尼崎支部。窃盗罪で起訴された受け子の元福祉施設職員の男性(24)に向かい、裁判官は抑えた口調で諭した。
判決などによると、男性はガールズバー通いの借金120万円の返済に窮し、スマートフォンからツイッターで「裏のバイトします」と投稿。そうすると「ハンチョウ」「フリーザ」などと名乗る匿名のアカウントから受け子の方法を教えるメッセージが送られてきた。
2日後、スマホを通じて、“フリーザ”などからの指示通り、警察官を名乗って西宮市の40代女性宅を訪問。女性には別の人物が「キャッシュカードが犯罪被害に遭う可能性がある」とうその電話をすでにしていた。信じ込んだ女性に、封筒にカード2枚を入れさせた上、すり替えて盗み、入手した暗証番号で現金自動受払機(ATM)から29万8000円を引き出した。その3日後にも同様の手口で2人の高齢者からカードを受け取った。
受け子の男性の“報酬”は引き出した現金の1割に当たる3万円。公判で男性は「職場の人間関係のストレスで自暴自棄になっていた」と悔いた。
6月下旬に言い渡された判決は懲役3年執行猶予4年(求刑・懲役3年)。裁判官は「あなたが特殊詐欺の実行役。前科がないことを考慮したが、(実刑との差は)きわどい」と厳しく指摘した。 西宮署が期間中に検挙した受け子は16歳の少年から40代の塾経営者までさまざま。だが、受け子が指示役とのやりとりに使うアプリはすぐに通信履歴が抹消されてしまい、捜査を阻む。さらに、3月からは管内では「還付金がある」とのうその電話をかけ、高齢者自身にATMから現金を送金させる手口も急増。詐欺の電話があれば周辺の無人ATMに署員を急行させ、注意を呼びかけている。署幹部は「水際で被害を防ぐしかない」と語気を強める。
◇還付金「もらえる」 被害前年比15倍超 警察官や市役所職員を装い、キャッシュカードを受け取ったり、現金を振り込ませる特殊詐欺が今年、県内で急増している。県警によると、5月末までで前年同期比2.2倍の413件(暫定値、被害額6億5100万円)。特に「還付金がある」と電話で伝えてATMで送金させる手口は15倍超の109件に上る。 手口別では、キャッシュカードを受け取る「預貯金詐欺」「キャッシュカード詐欺盗」が219件(被害額3億2400万円)と最多。還付金詐欺109件(9500万円)▽架空料金請求51件(1億5900万円)―と続く。地域別は阪神地域が48.2%を占め、神戸(33.7%)▽東播磨(11.9%)▽西播磨(5.1%)―などとなっている。 特に西宮署管内では、特殊詐欺が前年同期の2.7倍の59件(被害額9500万円)発生。還付金詐欺は34件と県内の3割を占め、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言中も署員が警戒を続けたという。
出典:Yahooニュース(2020/7/2)
https://news.yahoo.co.jp/articles/527dfcd11f6832f6538237dfa4ac23baf5a14023