さまざまな手口で巧みに金をだまし取ろうとする特殊詐欺。警察庁のまとめでは、令和元年の全国の被害は認知件数1万6851件、被害額が315億8千万円にも上る。被害を減らすには未然防止が重要だが、こうした詐欺の被害を開店から4年で5度も防ぎ、地元の警察署から表彰されたコンビニが福井市にある。なぜそんなに被害を防ぐことができたのか。秘密を尋ねると、最新の手口を知り、スタッフと共有したうえで、客の表情などの不審点を見逃さない注意深さが重要なのだという。
 ■新聞記事で警戒  福井市のコンビニエンスストア「ファミリーマート福井舟橋新一丁目店」。平成28年6月のオープンから1年が経過しようとしていた29年4月のある日、オーナーの父で店のマネジャー、春貴満(はるき・みつる)さん(63)は1人の男性客が目にとまった。40代だろうか、電子マネー4万円分を購入しようとしていたが、店内のマルチ端末の操作に不慣れな様子だった。使い道を尋ねると、有料動画の料金請求だという。被害が増えていた架空請求を疑い、警察に通報した。  ちょうどその日、春貴さんは他のコンビニ店で詐欺被害を防いだという新聞記事を目にし、「うちの店でも、止めないといけないな」などと家族で話した後、店に出ていた。  男性客にはレジ奥の事務所に入ってもらい、手続きしないよう説得した。男性の携帯電話には何度も着信があったが、春貴さんは「だまそうとしたやつらからの電話だろう。出ないように」と伝えた。  この一件で同店は、詐欺被害を防いだ事例として、翌5月に地元の福井県警福井署から表彰された。
 ■感謝状は5枚に  だが、同店の“活躍”はそれだけにとどまらなかった。以降も詐欺被害を何度も食い止めたのだ。  29年8月。女性客が電子マネーの購入をしようとしたところ、女性スタッフが対応し、被害を防いだ。  30年9月。マルチ端末を操作していた高齢男性が大手通販サイトを名乗るところから支払いを求められていた。春貴さんが電話を代わると、「個人情報だから答える必要はない」「ほかのコンビニに行け!」という声が聞こえた。  今年6月。電子マネーを購入しようとしていた男性客に女性スタッフが対応し、被害を防止した。  同年8月。電子マネーを購入しようとした50代くらいの男性客に使い道を聞くと、「当選したから支払わないといけない」と話したため、詐欺と気づいた。  これらのことにより、同店は計5枚の感謝状を受け取った。
 ■「大丈夫ですか?」はダメ  これほどまでに見抜くことができるのはどうしてなのか。春貴さんによると、いくつかのポイントがあるという。  まずは、「電子マネーを買う人で表情が暗い場合、特に注意を払っている」。コンビニで購入できる電子マネーはインターネット通販などの決済に使うことが多い。欲しかった物を購入するなど基本的には楽しい目的に使うはずで、浮かない顔はしないはずだからだ。  電子マネーの購入では、30万円などあまりに高額な場合や、2万円や3万円と切りの良い金額の場合は、詐欺の可能性があると気を付けている。  お客さんにどう声をかけるかも大切だという。  春貴さんは「何に使うのか使い道を具体的に聞いている」と話す。「大丈夫ですか?」では「大丈夫」と返されて会話が途切れるためで、やりとりから詐欺を疑う内容が聞き取れるかもしれないという。  春貴さんが強調するのは「手口を知らないと、お客さんから話を聞くことができても何が詐欺なのか分からない」こと。店では新聞記事や警察、消費者センターの情報をこまめにチェックし、手口の内容を貼りだし、スタッフ間の情報共有を徹底している。
 ■証券会社勤務の経験  春貴さんは、長男のコンビニ経営を手伝う前は証券会社に勤務していた。営業に回る顧客の元には怪しげな勧誘が寄せられることも多く、気を付けるように助言しても被害を受ける人もいた。春貴さんは「投資の裏表を知るような詳しい人でも、だまされた。詐欺グループは実に巧妙だ」と怖さを感じていた。  だからこそ、電子マネーを販売し、ATM(現金自動預払機)も備えるコンビニも詐欺被害の舞台になりうると知り、その阻止に力を入れてきた。開店4年で5度も詐欺を防いだ。輝かしい功績にも思えるが、春貴さんは「本当は詐欺だったかもと思うお客さんもいて、それを止められず、悔しくて眠れないこともあった」と振り返る。  新たな詐欺の手口については事務所内だけでなく、お客さんにも見える店内にも掲示している。「もっと詐欺の内容を知って、被害を避けてほしいから」と春貴さん。「これからも防げる被害を止めていく」と力強く語った。

出典:yahooニュース(2020/11/3)
https://news.yahoo.co.jp/articles/bfe972d64d52540d55794037b438a877acc8a82c