埼玉県在住の主に中国人を狙い、中国大使館などをかたって現金をだまし取ろうとする詐欺電話が、今年に入って目立っている。県警は、中国で流行していた手口が国内に移ってきた可能性があると分析。三千六百万円をだまし取られた事例もあり、注意喚起している。 (杉原雄介)
 
 五月二十八日朝、川口市に住む中国籍の王さん(35)の携帯電話に、見知らぬ番号から着信があった。出てみると、自動音声のような女の中国語で「中国大使館です。在留資格のことで九番を押してください」。王さんは当時、大使館にパスポート更新の申請をしていたため、その電話だと信じた。
 九番キーを押すと相手は別の女に代わり、流ちょうな中国語で「オウさんですか」。中国・上海の空港で王さんのパスポートが悪用されたと伝えられ、王さんは求められるままに生年月日やフルネームを教えた。ところが「警察に相談していいか」と尋ねると、女は急に怒ったような口調になり、「もういいです」と言って電話を切ったという。
 王さんは一一〇番し、詐欺電話だった可能性が高いことが発覚。被害はなかったが、相手が自分の名前を知っていた理由は分からず、「外国人を狙う詐欺があるとは聞いてたが、高齢者の被害が多いと思っていたので、まさか自分に来るとは」と驚きを口にする。
 中国語の不審電話に関する県警への相談は今年に入って目立つようになり、一〜九月で計二十六件。実在しない国の電話番号が使われることもあるほか、日本人にかかってくるケースも確認されている。県警国際捜査課の担当者は「詐欺グループが手当たり次第に電話し、中国語の分かる人をだまそうとしている可能性もある」とみている。
 詐欺電話の主な手口は、中国大使館や公安警察などをかたるもの。パスポートやキャッシュカードが悪用されたとして、犯罪と無関係だと証明するために現金を振り込むよう要求してくる。
 同様の手口で十月、熊谷市の五十代女性が三千六百万円をだまし取られ、十一月にも川口市の二十代女性が百十五万円の被害に遭った。同課は「こうした詐欺はもともと中国で多かったが、取り締まりが厳しくなったため、近年は日本に移ってきたのではないか」とみている。
 同課は被害拡大を防ぐため、中国語と日本語で詐欺の手口などを記して注意喚起するチラシを作成。十月中旬からツイッターに投稿したり、中国人が多く住む川口市内の中華料理店などに配布している。担当者は「大使館や公安から直接電話があったら詐欺を疑い、警察に相談してほしい」と呼び掛けている。
 
出典:東京新聞(2020/12/10)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/73499