架空の人物の口座を開設して、不特定多数に売り飛ばす――。そんな手口とみられる詐欺の容疑者グループを群馬県警が摘発した。グループに加わっていた不動産業者の空き部屋情報を悪用。空き部屋の住人になりすまして口座開設のためのキャッシュカードをだまし取り、転売して1千万円以上を売り上げたという。

 昨年2月27日午後4時10分ごろ、東京都中野区のアパートの一室。男(26)が配達業者からキャッシュカードを受け取ると、息を潜めて待機していた捜査員が動いた。アパート近くの路上にいた男の仲間が捜査員から職務質問を受け、「任意だろ」と大声で騒いで逃走。男もベランダから飛び降りて逃げ出したが、約500メートル先の路上で追いかけた捜査員に取り押さえられた。

 県警などへの取材で明らかになった摘発時の様子だ。現場を押さえるために泳がせておく「だまされたふり作戦」と呼ばれる。男に渡したキャッシュカードは模造品。配達業者は、業者の制服姿の捜査員だった。

 端緒は、スマートフォンアプリで口座が開設できる群馬県内の金融機関から事前に寄せられた相談だった。「本人確認書類としてデータ送信された運転免許証の画像データがおかしい」。県警が調べると、免許証の人物は架空で、カードの届け先になった中野区のアパートは空き部屋。逮捕された男は部屋の住民を装っていた。

 東京都や神奈川県の男たちをさらに逮捕するなど捜査を進めると、手口や役割が見えてきた。

5人で分担、不動産関係の男も協力

 県警の見立てはこうだ。

 空き部屋情報は不動産関係会社に勤める男(33)が提供▽現場には受け取り役の男と、大家らとの接触を避けるための見張り役の男(24)、受け取り役からカードを回収する現場指揮役の男(32)▽リーダー役は、最終的にカードを回収した住所不定の男(34)。リーダー役は、架空の人物名義の偽造運転免許証を作成し、口座の売買も担当したとみている。知人ら少なくとも男5人が役割分担し、ネットなどで口座開設できる金融機関を狙ったという。

 報酬として空き部屋情報を提供した男には物件1件につき約5千円、昨年1月~同3月に少なくとも計25万円以上が渡ったという。

 押収したパソコンや携帯電話の履歴などから、400以上の不正口座を転売したとみられる。売られた口座はインターネット詐欺の振込先や、特殊詐欺でだましとった現金の振替先として悪用された形跡があるという。

 県警は1月28日、リーダー役の男を組織的犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑などで8度目の逮捕に踏み切った。県警として初めてとなる組織的詐欺容疑での逮捕だった。男は容疑を認め、「生活費と遊ぶ金が欲しかった」と話しているという。(張春穎)

出典:朝日新聞デジタル(2021/2/8)
https://www.asahi.com/articles/ASP2836J2P23UHNB004.html